本を読まざるをえない

やる気のないOLです。通勤中は本を読みます。

太陽の坐る場所/辻村深月

太陽の坐る場所 (文春文庫)

太陽の坐る場所 (文春文庫)

辻村深月。「冷たい校舎の時はとまる」「凍りのくじら」などで瞬く間に地位を築いた。
初期作品の特徴は、少年少女が主人公で、ミステリーものという印象が強い。ミステリーと言っても、たとえば殺人事件が起こって、というのではなく、辻村深月が叙述力をもって読者に挑戦を突きつけるタイプ。ラストになると「そういうことだったのか、辻村深月の罠にはまっていた!」と気づかされるのだ。そしてその筆はどこかしらふわっとした物を感じさせた。主人公が少年少女だからか。

しかし、なかなかズシッとした文を書くことが増えたように思う。「盲目的な恋と友情」や、そしてこの「太陽の坐る場所」。何がズシッて、人の内面が。エゴや弱さも書き出す。そしてそっと、読者への罠も忘れない。

この「太陽の坐る場所」は、キョウコの話である。女優となり、高校時代のクラスメートから噂される、キョウコ。

冒頭に、キョウコの高校時代の一幕。そして場面は同窓会へ。「『キョウコ』は今回も来ないの?」と。
はじめの主人公は聡美で、きれいだ美人だと言われ、演劇もなかなか本気に打ち込んできた。だからこそ思う、「『キョウコ』は私のはずだった」と。自分が必死に守っているもの、自分が見下しているものの間で、葛藤が描かれる。
そして主人公は別の同級生へとバトンタッチ、クラスのあらたな側面が見えてくるというわけである。

やはり安定的な面白さ。
個人的には、「本日は大安なり」のようなポップな感じも好きだが、
これはこれで、人の内面を上手く書き出していて良い。