本を読まざるをえない

やる気のないOLです。通勤中は本を読みます。

銀河鉄道の父/門井慶喜

銀河鉄道の夜』は、宮沢賢治による童話としてあまりにも有名だ。

さてこの『銀河鉄道の父』という本。賢治の父・政次郎を主人公とした、一風変わった小説である。

 

 

銀河鉄道の父

銀河鉄道の父

 

 あらすじはというと、

石巻で質屋を構える宮沢家は、手堅い商売で財を成していた。時は明治29年。買い付けに京都へ出ていた政次郎の元へ、長男誕生の電報が届く。無上の喜びに包まれる政次郎。

しかしこの時代、そして大きな商家ということもあり、家長は厳しく、家族を俯瞰する存在でなければならなかった。政次郎の父も己に対しそうしたように、跡取り息子である賢治とは無駄な話をせず、威厳を持って接していた。

しかしその実、政次郎はこの息子のことがかわいくて仕方がなかった。賢治が7歳の時、赤痢にかかった際には、伝染病にも関わらず家長自ら付きっきりで看病し、政次郎自身も腸カタルを患ってしまう。これがきっかけで、政次郎はそれ以降死ぬまで、夏には粥しか食べられなくなる。

小学校へ通っていた賢治は成績は全て甲、これは政次郎と同じであった。しかし、政次郎には『質屋に学問はいらない』と父に反対され、進学を断念した過去があった。賢治が進学したいととうとう言った時には、父を説き伏せてこれを許す。

中学校へ進学した賢治。だが、小学校ではトップであった成績も、中学校ではそうはいかない。中学校を卒業しても家業には目を向けず、あれがやりたいこれがやりたい、だからお金を出して下さいと、父に頼りっぱなし。

長男だから、家長として、という気持ちがありつつも、やはり父は息子の望みをかなえてやりたいと思うのだった。

 

史実に基づいた部分が多いと思われるが、この本の中で賢治はダメ息子として書かれている。

本人にはそれなりのやる気があるのだろうが、学問に手を出しては挫折し、商売をやりたいと言っても現実味がない話ばかりをし、結果的には裕福な実家に金を無心してしまう。

それに対し、父・政治郎は家長としての威厳を保とうとしつつも、心の内ではどうしても息子がかわいく、結果的にはいつも息子を後押ししてしまう。その感情のせめぎあいが、一番の読み所と言える。父親自ら赤痢の看病だなんて、普通では考えられないのに、それを二人きりの時間と捉えてどこか楽しむ政次郎。宮沢賢治は存命中、作家として光をほとんどあびることなかったが、段々と作品を書き初めた賢治に誇らしく愛しい気持ちを持つ父。結局病が進行し賢治が臥せってしまうくだりでは、心理描写にぐっとくるものがある。

 

今月発表される直木賞の候補となっているが、本作が受賞すれば納得である。

父親の物語。