夜明けの街で/東野圭吾
どうしても次に読む本が見つからないとき、必殺技として選ぶ作家が私には数人いる。
東野圭吾はその一人である。
なんと言ってもその安定感。そして作品数の多さ。
とりあえず読んでおこう、間違いはない、というわけである。
あらすじはAmazonから引っ張ってこよう。
不倫する奴なんて馬鹿だと思っていた。ところが僕はその台詞を自分に対して発しなければならなくなる―。建設会社に勤める渡部は、派遣社員の仲西秋葉と不倫の恋に墜ちた。2人の仲は急速に深まり、渡部は彼女が抱える複雑な事情を知ることになる。15年前、父親の愛人が殺される事件が起こり、秋葉はその容疑者とされているのだ。彼女は真犯人なのか?渡部の心は揺れ動く。まもなく事件は時効を迎えようとしていた…。
そう、これは不倫の話である。
「不倫を絡めたミステリーか…」と思って読みはじめたものの、6割方が不倫の話だ。
2011年には、「東野圭吾初のラブストーリー」「この恋は、甘い地獄。」と銘打ってドラマ化されたようである(知らなかった)。岸谷五朗と深キョンである。
主人公の渡部はごくごく普通の会社員。妻子持ちだ。
しかし、彼が勤める会社に仲西秋葉が契約社員として来たことから、「甘い地獄」がスタートする。
この秋葉、100パーセントかわいい、という感じでは書かれていない。そこがリアルだ。
つきあうきっかけとなったのは秋葉が一人でバッティングセンターにいたからだし、飲んではいてしまったり、「結婚しない人とは付き合わない」と言い切る31歳だったりと、何ともいい具合にリアルな存在。
だが渡部にとっては恋いこがれる相手となる。今の生活を捨てるなんてばかだ、と思いつつ、深みにはまっていく。
そんな甘い地獄のなかに、引っかかりがあった。秋葉の実家で昔起きた殺人事件のことである。その事件は、もうすぐ時効を迎える。容疑者として、秋葉その人がいた。
とまあ、不倫相手はもしや殺人犯なのか?という点でミステリー要素が入っているが、6割7分くらいは不倫の話だ。「目を覚ませ渡部!」とか、「あーやっちまったよ」とか、主人公が堕ちていくのを憐れんだりなんだりしながら読む。もう不倫の描写が手に汗にぎる。嫁さんのもとへ早く帰れ!と叫びそうになる。不倫はいろいろぶちこわすということを教えてくれる本だ。
余談だが、秋葉という名前が絶妙に東野圭吾だと思う。例えば舞子とか加代とか早紀とかではない。秋葉。イメージするのは、深キョンよりも強めな女性である。
もう一度恋がしたい。男に戻りたい。
そういう夢を抱いた男の物語といってもいい。
東野圭吾はこういう描心理描写もうまい。